Milwall 1-0 Oldham Athletic (イングランド3部リーグ)
2000年2月5日 観客8,400人

"NO ONE LIKES US , WE DON'T CARE"

鉄道橋の向こうに見えるミルウォールFCのホーム、ザ・デン。全椅子席、2万人収容。


鉄道橋の裏側を少し行くと荒くれた光景が。

ロンドン南東部、ザ・デンの周辺は間取りの狭そうな高層住宅が立ち並ぶ。いかにも労働者階級向けに新しい街づくりがなされた感がある。
通りの食堂はロンドン中央部で安い店を探しに四苦八苦しているのがあほらしくなるほど安くて量が多い。腹一杯になってザ・デンの近所のブラムコート・アームズというパブに入る。

スタジアム至近にもかかわらず「メンバーだけ入店可」といった張り紙もなく、入店も咎められない。ユニフォームに着替えている人は見当たらず、皆黙々とにプラスチックのコップに注がれたビールを飲んでおり、試合前の興奮と無関係な雰囲気であった。

ここはミルウォール・オンリーの店なのか、隣の中年男に訊いてみると「ミルウォール・オンリー?・・・まあ、そんなところだ」と答えが返ってきた。名はレニーと言い、羽織っていた革ジャンを床に放り投げ、ミルウォールのユニフォーム姿になった。

ミルウォールは’70〜’80年代のフーリガン沙汰でイギリス全土にその名を轟かせているという予備知識を基に、ミルウォールのホームゲームに出向いてみたのだった。

「ノース・スタンドのチケットを買ってあるなら俺が連れていってやる。ひとつ歌を教えてやる。"NO ONE LIKES US, WE DON'T CARE"だ。これだけ覚えておけ。あとはコックニーだから言っても分らないだろう。」

「ミルウォールがザ・デンで負けることは滅多にない。俺達がついているからだ。俺達のライバルはウエスト・ハム、チェルシー、ストーク・シティ、マンチェスター・ユナイテッドとシティ。テディ・シェリンガムを知ってるか?あいつはミルウォールのサポーターだ。ユナイテッドの後は絶対ここに戻ってくる。」

「俺達が騒がれるようになったのは、ウエスト・ハムの奴等が俺達のサポーターを駅のホームからつき落として電車で轢き殺したのが始まりだ。当然俺達もやり返した。」

「俺達はどこからでも一目置かれている。今が三部リーグだろうが関係ない。」
自身もサンダーランド・サポーターで満員のパブにミルウォールのユニフォームを着て一人で乗り込み、連中を怖気づけさせたことがある、などと淡々と話した後、突然こちらを睨みつけてこう言った。

「今のミルウォールはおとなしいが、もし本当の俺達を知りたいのなら、試合が終わったら連れてってやる。その代わり、お前は自分を守れるか?」と突然二の腕を掴まれ、危険な雰囲気になった。

「もうすぐ時間だ。もう一杯飲め。」

非常に危ないオッサンに捕まってしまい、大いに気が滅入った。毒を食らわば皿までも、とビールを飲み続け、レニーに拉致されゴール裏、ノース・スタンドのアッパー・コールド・ブロウ・レーンに連れていかれた。


陽溜まりの中、健全な佇まいのザ・デン。


ミルウォールのゴール裏二階スタンドからメインスタンド


バックスタンド


眺めは最高。4,000人収容のアウェー側スタンドには約200名ほどのオールダム・サポーター。

ゴール裏は埋まっており、レニーがひとつ前の席に座ったことへの安堵と、腹も膨れたこともあって、試合中はほとんど居眠りをしていた。ハーフタイムにレニーに叩き起こされたが、後半開始と共にまた寝てしまった。

80分過ぎに目を覚ますと、ミルウォールは一人退場になっていたが、試合終了間際にPKを決めて即タイムアップとなった。

"NO ONE LIKES US, WE DON'T CARE,  WE'RE SUPER MILWALL, FROM THE DEN"

セイリングの節で「スーパー・ミルウォール、他人が何言おうが気にしない」と大合唱が渦巻く。
こちらを振り返り「見たか!ミルウォ〜ル!」吠えるレニー。こちらも(あっちいけこのやろう!)と顔を突き合わせて吠えた。

「たった10人、たったの10人で勝った。ミルウォ〜ル!」
両こぶしを握りしめ絶叫するレニーとスタジアムを出る。試合に勝ち、少しは付き合う気力が盛り返してきたが、オールダムのスカーフが襟元からちらつくアウェー・ファンをじっと睨みつけたり、「本当の姿を教えてやる。付いてこい」と繰り返すレニーは、試合前と変わらず不穏なムードを発散していた。

どんな暗黒フーリガンの巣窟に連れていかれるのか、本当に危ないところだったら即逃げる用意はできていた。しかし入ったのはアットホームな店で、ミルウォール・ファンがジュークボックスから流れるビートルズの歌を合唱しながら飲んでいたので、ほっとした。

「飲むぞ!おい、チャールトンのあほ、酒を注げ!」とバーマンに金を叩きつけるレニー。「あの人には困ったもんです」と、チャールトン・ファンのバーマンがぼやき、店の女主人がレニーに一喝したことで、自分が今まで半分からかわれていた事が分かった。

レニーはそれからビリヤードに熱中し、こちらはジュークボックスを相手に疲れを癒しながら飲んだ。「もう帰るよ」「なに!」「今日は一日ありがとう。またデンに来ますよ」「勝手にしろ!」

相当な気疲れと酔いで、宿までバスか電車で帰ったのかまったく覚えていない。

ミルウォールはその後も2部と3部を行き来しており、どちらのリーグでプレーするかは下位リーグのサポーターの大きな興味となっている。パブで興味本位、余計なフーリガン話をしないならば、他の会場同様に安心して試合を楽しむことができる。